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倒さなければ自分の負け──。
「ボクシングではマロニー。強打で武居」と予想されたこの試合。元来、KOに対するこだわりは人の何倍も持ち合わせているが、今回は、よりいっそうその思いが強かった。技術戦になれば、遊ばれてしまう可能性さえある。そういう覚悟を誰よりも本人が抱いていたはずなのだ。
けれどもいざフタを開けてみれば、鋭く重い右ジャブで先制し、ストレートとアッパーを使い分けた左ボディー攻撃をキーブローとし、基本的なボクシング技術でもマロニーを上回っていったのだからおもしろい。そして、井上尚弥&拓真の初回ダウン同様、驚きハラハラさせた最終12ラウンド……。新王者誕生の気運が最高潮に達していたところから、大逆転KO負け寸前という奈落へ。まるでジェットコースター・ムービーのような急展開で、図らずも惹きつけた。
王座獲得直後のニューヒーローは、勝ったという事実を喜びこそしたものの、試合内容や展開について興味を示さなかった。連打を浴びて棒立ちになった最終回“以外”を讃えても、むしろそちらを他人事のように振り返った。
「映像は12ラウンドだけ見た」と言うのだから、普通の感覚とは真逆かもしれない。「どんな感じだったか気になった」と自分がやられている姿を確認し、傍目には良かったそれまでについては見ることもなく口ごもる。代弁すると、「倒せないシーンを見てもおもしろくない」からだ。
誰の目にもリードして見えた最終回。そこに向かう心境を、「カッコつけちゃいました」と表現する。「『ここで倒したら盛り上がるじゃん』って考えちゃったんです」と、苦笑いを浮かべながら補足する。実際に出だしはそれまでと何ら変わらなかった。きびきびとした動きを継続し、思惑通りに進行させた。だが、パッタリと動きが止まる。「ふっとタイム表示を見てしまって、そこで『まだ半分もあるじゃん』って思ってしまったんです」
ほんのわずかよぎったマイナス思考。一瞬の後ろ向きが、体に疲労感を思い出させた。その隙をマロニーは突いてきたのだった。..《文/本間暁》
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