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13日、有明アリーナで行われた『PRIME VIDEO BOXING 10 DAY1』。世界戦4試合という豪華興行のメインイベントを飾ったWBA世界バンタム級タイトルマッチ12回戦は、挑戦者2位・堤聖也(角海老宝石)が、王者・井上拓真(大橋)を114—113、115—112、117—110の3—0判定で攻略。新チャンピオンに輝くとともに、12年前にアマチュア全国大会で敗れたリベンジを果たした。
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「この瞬間、この勝利のために生きてきた」。世界王座を獲るよりも井上拓真という存在に勝つことが重い──そんな執念を感じさせる、鬼気迫るボクシングだった。
左フック、右アッパー、右ショート。初回から井上が得意のカウンターを立て続けに決めて好スタートを切った。しかし、堤は決して怯むことなく1発受ければ3倍も4倍も反撃する。本来は左ジャブとステップバックを巧みに操って距離を取る井上だが、この日は踏みとどまってカウンターを狙い、堤の攻撃をボディーワークでかわそうとするスタイルに固執。だが、堤の連打は縦横無尽。上から下から斜めからと、雨あられのように繰り出していく。さしもの“防御の達人”井上も、そのすべてをよけきれず、ボディーを主にヒットを奪われた。
序盤から激しく連打を仕掛けていった堤だが、中盤に入っても、後半になっても攻撃の手は緩まない。それどころか激しさを増すばかりだ。井上も要所でカウンターをヒットさせたが、堤の猛攻にかき消され、押されていった。
ハイレベルな技術もさることながら、驚異的なスタミナを持つ井上。けれども、堤のしつこいボディー攻めに加え、リズムの悪さが影響したか、めずらしく疲労の色を窺わせ、集中力の欠如も現れた。10回、ロープを背にし、フッと目線を外した瞬間に堤が左フックをヒット。たまらず体を寄せた井上に、堤は左ショートフックを追撃。すると、井上はバランスを崩してロープにもたれかかり、レフェリーにカウントを数えられたのだ。
ダメージはない。ダウンじゃない。不満の表情を浮かべてカウントを聞いた井上は、これもめずらしく冷静さを失っていた。左ジャブでリズムを作り、ステップで堤の攻撃をかわす場面もあったが、それは数える程度。堤の執念と同じほど、井上も1995年生まれの同級生を強く意識していたのだろう。真正面から受け止めて勝ちたい。その想いがにじみ出ていた。そういう戦いに巻き込んだ堤の見事な戦略・戦術だった。
12勝8KO2分。無敗で世界の頂点に立った堤は、“人生のライバル”を攻略して日本人が占める世界4団体王者の一角に成り上った。中谷潤人(M.T)らとの統一戦を熱望していたものの、3度目の防衛に失敗した井上だが悔しさを隠して笑顔で堤を称えた。20勝5KO2敗。新たな“ライバル・ストーリー”の始まりを感じさせた。